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神戸地方裁判所 昭和48年(行ウ)28号 判決 1976年3月31日

神戸市生田区西町三六番地興銀ビル内

原告

日下部同族合資会社

右代表者代表社員

日下部泰雄

右訴訟代理人弁護士

米田軍平

山崎満幾美

神戸市生田区中山手通三丁目二一番地

被告

神戸税務署長

奥田實

右指定代理人

岡準三

風見幸信

中井宗敏

山口正

片山敬祐

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が原告に対し昭和四六年一〇月二五日付でした特定資産の買換えの場合における特別勘定設定期間延長申請の不承認処分はこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は土地・建物の賃貸を業とするものであるが、函館市末広町二一番地の二一、四七、四八、六七の各土地を昭和四五年五月二〇日道南漁船保険組合に、同二一番地の六六、六八の各土地を同年七月六日函館船員合資会社にそれぞれ譲渡したが、右譲渡代金で岐阜県各務原市所在の建物を取得するため、昭和四六年八月二九日、租税特別措置法(昭和四六年法律第二二号による改正前のもの。以下単に法と言う場合は法律第二二号による改正前の法をいう)第六五条の七第一項に基づき特別勘定設定期間の延長承認申請をしたところ、被告は同年一〇月二五日不承認処分をした。

2  そこで、原告は、右不承認処分に対し、同年一一月二〇日異議申立をしたところ、昭和四八年一月一三日被告により棄却されたので、更に同年二月八日審査請求をしたが、同年六月一四日付で棄却の裁決がなされ、同裁決は同月一六日原告に交付された。

3  しかしながら、被告の右不承認処分は以下の理由により違法であり、取消されるべきである。

即ち、原告は、昭和四五年度法人税について、昭和四六年三月一日法第六五条の六第一項表第一号、第六五条の七第一項の規定により、前記土地売却代金の内一二四五万四八九二円を特別勘定とした内容の申告をした。ところが、被告は同年四月三〇日付で右特別勘定の設定は認められないとして更正処分をした。そこで、原告はこれを不服として同年六月二九日審査請求をしたところ、同年一二月一四日国税不服審判所長は、本件の場合には法第六五条の六第一項表一一号、第六五条の七第一項が適用されるから右更正処分は違法であるとしてこれを取消す裁決をし、同裁決書は昭和四七年一月一三日原告に到達した。

しかしながら、右更正処分により、原告は、昭和四六年五月二八日法人税二一三万四五〇〇円、過少申告加算税一〇万六七〇〇円、同年七月二三日法人事業税二九万二五〇〇円、県民税五万九七五〇円、加算税一万四六〇〇円、法人税延滞税三万七五〇〇円、合計二六四万五五五〇円の納税を余儀なくされた。

ところで、被告は、納税者の確定申告に対し更正処分を行う場合には、正確な調査にもとづいてなすべきことが義務づけられている(国税通則法第二四条、法人税法第一二九条参照)。しかるに被告はこの義務を怠り、原告の買換資産の内容が法第六五条の六第一項表第一一号に該当することを見過して全く違法不当な更正処分をしたのである。

原告は、岐阜県各務原市に貸家等を建てる計画でいたが、資本金四九万五〇〇〇円という零細な業者であり、資金も不足勝ちの実情にあつたところから、右被告の更正処分により、本来ならば建築資金にまわす予定の金員を右の通り税金として一旦納入せざるを得なくなり予想外の資金的困難に陥つた。しかも、右更正処分を違法とする裁決が遅くとも昭和四六年九月ころにでも出されていれば本件延長承認申請の必要性もなかつたかもしれないが、右裁決のなされたのが同年一二月一四日、送付されたのが昭和四七年一月一三日であり、右裁決の遅延そのものも右建築計画を狂わせる原因となつた。

このように、原告は、被告の違法な更正処分によつて貸家建築資金等に予定していた金員を納税金に充当せざるを得なくなつた結果昭和四六年一二月末日までに買換資産を取得できなくなつたのであつて、被告の責に帰すべき事由によつて本件延長承認申請をせざるを得なかつたのである。

そして、法第六五条の七第一項かつこ内の「やむを得ない事情がある」場合とは、本件のように被告の責に帰すべき事情がある場合をも含むものと考える。租税特別措置法施行令(昭和四六年政令第七四号による改正前のもの。以下、「施行令」という)第三九条の六第八項の「通常一年をこえると認められる事情その他これに準ずる事情がある場合」も右のように解して何の不都合もない。かえってそのように解さないと被告の恣意によつて納税者に不利益を与える結果となり不平等を招来することになる。

被告は、法第六五条の六第三項に規定する「やむを得ない事情」を工場等の移転についての技術的、物理的事情に限定すべきである旨主張するが、最近の複雑な社会事情の中では例えばインフレによる資材勝貴と資金難、建築に反対する住民運動による建築遅延等のように、買換資産取得の遅延事情は、単に技術的、物理的事情に限定し得なくなつている。

よつて、請求の趣旨記載の通りの判決を求める。

二、請求原因に対する答弁

1. 請求原因1の事実中、原告の事業目的、原告が昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、昭和四五年度という)中に函館市末広町所在の土地を譲渡したこと、原告主張の日時に法第六五条の七第一項による特別勘定設定期間延長承認申請がなされ、被告がこれに対し不承認処分をしたことはいずれも認める。その余の事実は不知。

2. 同2の事実は認める。但し、異議申立棄却の決定がされた日付は昭和四七年一月一三日であり、審査請求がされたのは同年二月八日である。

3. 同3の主張は争う。

三、被告の主張

1. 原告の昭和四五年度分法人税課税の経緯

原告は被告に対し、昭和四六年三月一日、昭和四五年度の法人税について、当期欠損金額六四五万四六七二円として確定申告書を提出した。右申告書に添付されていた別表一四(五)「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用がある場合の損金算入に関する明細書」及び同時に提出された「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」によれば、原告は、昭和四五年五月二〇日と七月二八日の二回にわたり、函館市末広町二一番地に所有していた宅地を売却したが、右売却代価で岐阜県各務原市那賀町の宅地約五〇〇坪を購入する見込みであるから、法六五条の六第一項表第一号、第六五条の七第一項に該当するとして右規定の適用を選択し、右売却代金のうち一二四五万四八九二円を特別勘定に経理するとともに所得算定上損金に算入していた。

しかしながら、調査の結果、右函館市末広町二一番地の宅地は法六五条の六第一項表第一号の上欄の資産に該当しないことが判明したので、被告は、原告には法第六五条の七第一項の規定は適用されないと判断し、昭和四六年四月三〇日、原告に対し、右特別勘定設定額の損金算入を否認し、所得金額を六〇〇万〇二二〇円、納付すべき法人税額を二一三万四五〇〇円とする法人税の更正処分をした。

これに対し、原告が、同年六月二九日、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同審判所長は、売却した物件は法第六五条の六第一項表第一号の上欄の資産には該当しないが、買換資産として減価償却資産を取得し、取得後一年以内に事業の用に供する見込みであるから、原告において法第六五条の六第一項表第一一号、第六五条の七第一項の適用を選択し特別勘定設定額の損金算入ができるとして、同年一一月五日、右更正処分を全部取消す裁決をし、同年一二月一四日裁決書を原告に郵送した。

これにより原告の昭和四五年度法人税額は原告の確定申告通り確定した。

2. 本件不承認処分の経緯

原告は、前記昭和四六年三月一日の法人税確定申告の提出と同時に「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」を提出した(以下、第一回承認申請という)。右申請書には、取得しようとする買換資産として岐阜県各務原市那賀町の宅地約五〇〇坪が掲げられ、その取得予定年月日は同年一二月三一日、特別勘定設定期間延長の認定を受けようとする年月日は昭和四七年一二月三一日、右延長を必要とする理由は「市街地調整区域に決定のため事務処理が当局では年内、(四六・一二・三一)には覚束ない状況」と記載されていた。

右第一回承認申請に対し、被告は、昭和四六年七月三日、法第六五条の六第一項表第一号の上欄の資産は既成市街地内にある資産であり、原告が既成市街地外の函館市末広町二一番地の宅地を譲渡して右那賀町の宅地を取得する見込であつても法第六五条の七第一項の規定は適用されない旨の理由を付して原告に対して不承認の通知をした。右不承認処分については原告は争わず、そのまま確定した。

ところが、原告は、同年八月二九日に再び特別勘定設定期間延長承認申請書を提出した(以下、本件申請という)。本件申請書には、昭和四六年法律第二二号による改正後の法第六五条の六第一項表第一二号(右法律第二二号による改正前に於ては表第一一号。以下、改正後の法という場合は法律第二二号による改正後のものをいう)該当と記載され、取得しようとする買換資産として岐阜県各務原市の宅地七〇坪と同地上に新築しようとする貸家、ガレージ、物置等と、その取得予定年月日は同年一二月三一日と、特別勘定設定期間延長の認定を受けようとする年月日は昭和四七年一二月三一日とそれぞれ記載されていた。又右延長を必要とする理由は、(一)、第一回承認申請が不承認となつたこと、(二)、昭和四五年度分の法人税について、特定勘定繰入額の損金算入が否認されて更正処分を受け、買換資産の取得に充てようとしていた資金を納税のために費消したこと、(三)、買換予定資産の所在地は法第六五条の六第一項の表に定める地域の決定について未だ計画が公示されていないこと、と記載されていた。

右本件申請に対し、被告は、昭和四六年一〇月二五日、資金繰りの都合で買換資産の取得が遅れるような場合は法第六五条の七第一項のやむを得ない事情がある場合に該らない、又改正後の法第六五条の六第一項表第一二号の下欄の資産はその所在地につき都市計画法等による地域指定がなされることは要件になつていない旨の理由を付して原告に対して不承認の通知をした。

3. 本件不承認処分の適法性

(一)、法第六五条の七第一項かつこ書に規定する税務署長の承認は、納税者において法定の買換資産の取得を困難とするやむを得ない事情がある場合にのみ行なわれる。そして、右やむを得ない事情とは、法第六五条の六第三項に規定する政令であるところの施行令第三九条の六第八項の定めによるから「工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びに当該工場等の建設及び移転に要する期間が通常一年をこえると認められる事情その他これに準ずる事情がある場合」をいう。このように、同施行令は、まず、土地を取得し、それを造成し、その上に工場、事務所を建設し、その工場等に機械、装置等を移転するのに通常一年をこえる期間を要すると認められる場合を掲げているのであつて、これは取得すべき資産そのものについてのもつぱら技術的、物理的なやむを得ない事情を指していることは明らかである。従つて、「その他これに準ずる事情」も、取得すべき資産そのものについてのもつぱら技術的、物理的事情を指すことは明らかであり、会社内部における資金繰りの都合のみで買換資産の取得が遅れる場合はこれに含まれないと解すべきである。又原告主張のように、インフレによる資材騰貴や建築に反対する住民運動の存在をもつて右の「やむを得ない事情」に当ると解することもできない。

(二)、ところで原告が取得見込であると申請した減価償却資産の取得見込価額の合計額は九四八万三〇〇〇円にすぎない。従つて原告は、函館市末広町二一番地の宅地の売却代金一二四五万四八九二円から昭和四五年度法人税の更正にかかる税額等合計二六四万五五五〇円を支払つたとしても、なお右取得見込資産を充分取得できたはずであつて、若し右取得が資金的に困難であつたとすれば、それは法人税の更正とは全く無関係な原告会社内部における経営上の事情に基づくものである。

なお、原告の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税の確定申告書には、本件にかかる買換資産として、昭和四七年一二月八日岐阜県下川手中堤一三八一の建物を六〇〇万円で取得したと記載されている。これは、原告が二度にわたる承認申請で取得見込としていた資産とは種類、所在、価額ともに全く異なるものである。このことは、原告における買換資産取得の遅延が、本来法第六五条の七第一項の適用の前提として確定しておくべきであつた原告の買換計画そのものの不安定さによることを示すものである。

(三)、そのうえ、本件承認申請書に原告が記載している買換資産の取得予定年月日は昭和四六年一二月三一日である。即ち、原告は資産の「譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から同日以後一年を経過する日までの期間」内に買換資産を取得する予定であるとしている。従つて、法第六五条の七第一項かつこ書の規定によつて取得指定期間の認定及び特別勘定設定期間延長の承認を求める必要性はない。

(四)、なお、原告は、本件承認申請書において、買換取得予定の資産として岐阜県各務原市の宅地七〇坪をも記載しているが、改正後の法第六五条の六第一項表第一二号の下欄に定める資産には土地は含まないし、右宅地は同表の各号の下欄に定める資産のいずれにも該当しないから、右宅地の取得については法第六五条の七第一項の規定は適用されない。

以上の通りであるから、本件不承認処分は取消されるべきではない。

第三、証拠

一、原告

乙号各証の成立はすべて認める。

二、被告

乙第一号証の一ないし四、第二号証、第三号証の一ないし五、第四ないし第九号証

三、職権

原告代表者本人

理由

一、請求原因1、2の各事実中、原告の事業目的、原告が昭和四五年度中にその所有の函館市末広町所在の宅地を他へ譲渡したこと、そして原告は、昭和四六年八月二九日、買換資産として岐阜県各務原市所在の土地及び建物を取得するため、被告に対し、法第六五条の七第一項に基き特別勘定設定期間の延長承認申請(本件申請)をしたこと、これに対し被告が同年一〇月二五日不承認処分をしたので、原告は適法に異議申立並びに審査請求をしたが、いずれも棄却され、昭和四八年六月一六日棄却裁決の交付を受けたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、被告のした右不承認処分の適否について判断する。

右争いのない事実に、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第二、第四、第八、第九号証及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、

1. 原告は、昭和四六年三月一日、被告に対し昭和四五年度法人税の確定申告をしたが、同申告書において、同年度中に譲渡した前記末広町の宅地の売却対価一三二四万五五八〇円の中一二七九万七四六三円を充てて買換資産を取得する予定なので法第六五条の六第一項表第一号、同条の七第一項に該当するとしてその対価について特別勘定設定の経理をしたうえ所定金額を損金算入したこと、これに対して被告が、右宅地は法第六五条の六第一項表第一号上欄の資産に該当しないとして、同年四月三〇日右損金算入を否認して更正処分をしたので、原告はその取引銀行からの借入金によつて、取敢えず同年五月二八日右更正処分にかかる法人税を納入したのを始めとして各種税合計二六四万五五五〇円を納税するとともに、同年六月二九日右更正処分に付いて審査請求をしたこと、この審査請求に対しては、同年一一月一五日、原告の場合は法第六五条の六第一項表第一一号に該当するので損金算入を認めるべきであるとの理由によつて右更正処分を取消す旨の裁決がなされたこと、

他方、原告は、右法人税確定申告とあわせて、同日付で、被告に対し、右譲渡した末広町の宅地に対応する買換資産として岐阜県各務原市那賀町所在の宅地約五〇〇坪を取得する予定として法第六五条の六第一項表第一号、同条の七第一項による特別勘定設定期間の延長承認申請(第一回)をしたこと、これに対して被告が同年七月三日付で不承認処分をしたが、原告は不服申立はせず、同処分はその頃確定したこと。

2. その後原告は、同年八月二九日付で再び被告に対し特別勘定設定期間の延長承認申請(本件申請)をしたこと、本件申請書には、申請の理由として、要旨、(ア)、前回(第一回)の申請が認められなかつたこと、(イ)、前記更正処分がなされ、買換資産の引当金を納税資金に費消したこと、(ウ)、買換資産の所在地が法第六五条の六第一項に定める地域の決定について未だ計画の公示に至つていないこと、と記載されていたこと、しかしながら、原告において、買換資産の取得が遅延するについて、例えば新築完了まで一年以上かかるなどという取得予定資産そのものについての技術的、物理的な事情が存在することは記載されておらず、又現実にも存在しなかつたこと、又本件申請書の記載によると、買換資産の内容は、改正後の法第六五条の六第一項表第一二号(改正前は表第一一号)該当の岐阜県各務原市所在の宅地七〇坪及び同地上に新築予定の建物(貸家)ガレージ等、その取得見込価額は合計一三〇四万三〇〇〇円、取得予定日は同年一二月三一日、認定を受けようとする日は昭和四七年一二月三一日というものであつたこと、これに対し被告は、同年一〇月二五日付で、(エ)、資金繰りの都合で買換資産の取得が遅れるような場合は法第六五条の七第一項のやむを得ない事情にあたらない、(オ)、改正後の法第六五条の六第一項表第一二号の下欄の資産はその所在地につき都市計画法等による地域指定がなされることは要件になつていない、との理由で不承認処分をしたこと、

3. ところが、原告は、昭和四五年度において、十勝沖地震で貸家に損害を受けたため、前記宅地売却代金から災害補修費一九六万五三九四円と災害損失金五一一万四〇二六円の合計七〇七万九四二〇円の支出をしていたこと、それ故、前記確定申告書の記載にもかかわらず、実際に買換資産の取得に充てることのできた資金は、前記売却代金から右災害補修費等を控除した残りの六一六万六一六〇円にすぎなかつたこと、

以上の通り認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

三、ところで、法第六五条の六及び同条の七は、法人のなす資産の買換に対し、それが国の土地政策に合致する場合に一定の優遇措置を与えようとするものであつて、その内容は、(ア)、法人が従前所有していた資産を譲渡し、右譲渡した事業年度中に買換資産を取得する場合に一定の要件のもとに法人税について優遇措置を与えることとし(法第六五条の六第一項)、(イ)、従前の資産を譲渡した事業年度の前事業年度に資産を取得している場合もこれを買換資産とみなして法第六五条の六第一項を適用することとし(同条第三項)、(ウ)、さらに買換資産とみなされる資産を取得した時期が従前資産を譲渡した事業年度より三事業年度遡つた時期以内である場合にも、それが施行令で定めるやむを得ない事情がある等の場合には、同様に法第六五条の六第一項を適用することとし(同条第三項)、(エ)、従前の資産を譲渡した事業年度の翌事業年度中に買換資産を取得する見込みである場合に一定の優遇措置を与えることとし(法第六五条の七第一項)、(オ)、施行令に定めるやむを得ない事情が存することにより翌事業年度中に右資産を取得することが困難である場合には、税務署長の承認を得た上その指定する翌二事業年度以内に右資産を取得する見込みのある場合も同様に優遇措置を与えることとした(同条同項)ものである。そして、右(ウ)、(オ)にいうやむを得ない事情は施行令第三九条の六第八項に定めるところであつて、「工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びに当該工場等の建設及び移転に要する期間が通常一年をこえると認められる事情その他これに準ずる事情」である。

右施行令の「その他‥‥」以下の部分を除いた部分は、要するに、宅地の造成並びに工場等の建設及び移転に要する期間が通常一年をこえると認められる事情というのであるから、その文書からして、例えば大規模な宅地造成をした場合とか、特殊な、特に慎重に行うことを要する工場建設をする場合など、もつぱら当該買換資産を一年以内に取得することを困難ならしめるところの、当該買換資産そのものにかかる物理的、技術的障害を指していることが明らかである。そうであるとすれば、これを受けた「その他これに準ずる事情」も又買換資産そのものにかかる物理的、技術的障害を指すものと解すべきであつて、買換資産を取得する為の資金的事情の如きはこれに含まれないものと解すのが相当である。

以上の解釈を前提として本件の場合を考えてみるに、前記認定事実によれば、原告においては、買換資産の取得が遅延するについて、例えば貸家の新築完了まで一年以上かかるというような買換予定資産そのものについての物理的、技術的障害はなかつた(本件申請の理由にもされていなかつた)ことが明らかであるから、原告には法第六五条の七第一項の適用がないことも又明らかであると言わなければならない。

四、ところで、原告は、被告において、原告の確定申告に対し前記の通りの更正処分をしたため、原告は買換資産の取得に充てる予定の金員を一旦納税に費消せざるを得なくなり、その結果昭和四六年一二月末までに買換資産の取得ができなくなつたのであるから、被告の責に帰すべき事由により買換資産の取得が遅延したのであり、このような場合も法第六五条の七第一項のやむを得ない事由があると解すべきだと主張する。

しかしながら、たとえ被告の誤つた更正処分の為に買換資産取得の為の資金計画に支障を生じたとしても、かかる資金的事情が前記施行令第三九条の六第八項にいう「その他これに準ずる事情」に該当しないことは前項に説明した通りである。のみならず、前記認定事実によれば、原告が昭和四六年度において買換資産に充当し得る金額は、確定申告書の記載にもかかわらず、従前資産の売却代金から、十勝沖地震による貸家のこうむつた被害のために支出した災害補償費と災害損失金を控除した残りの約六〇〇万円だつたのであり、この支出を余儀なくされた点において、すでに本件申請にかかる買換資産を取得することは、借入等をしないかぎり不可能であつたと認められるのである。そして、前記乙第八、第九号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は神戸市垂水区に一〇〇〇坪以上の宅地を所有する外岐阜市、函館市にも不動産を所有していると認められるのであるから、なるほど前記更正処分にかかる法人税等の納税のために銀行から借入をしていることは前記認定の通りであるが、さらにこれらの不動産を担保にしての借入余力が充分にあつたと考えられるのである。

これらの事情からすれば、原告が、その主張のような理由から本件申請の措置をとらざるを得ない状況にあつたと認めることは到底できない。よつて、原告の冒頭記載の主張は到底採用できない。

五、以上の通りであるから、被告のした本件不承認処分は正当であり、原告の主張は何ら理由がないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 林義一 裁判官 棚橋健二 裁判官 佃浩一)

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